Duivekater

■ Duivekater ■



『ダイフェカーター』は、「悪魔の牡猫」と呼ばれるパンの名前です。
なぜそんな名前がパンに付いているのか?どんなパンなのか?知りたくなりませんか?

昨年ある講演会に、こんなタイトルを見つけ、私はそのパンの正体を見たくなり、そ
の講演会に訪れました。そして400年も前のその不思議なパンを、なんと作る機会
を得たのでした。クリスマス菓子として名高いシュトレンと同様に、ヨーロッパでは長い間
クリスマスに、特別なパンを焼く習慣があったのだそうです。それがこのパンでした。
今では知る人もほとんどないようですが、シュトレンと同様に、その言い伝えや伝統には
深い意味があったのだそうです。
それは、今まで知らなかった、クリスマスに秘められた世界でした。

是非400年前の味をお楽しみ頂けたらと思います。そしてこのパンと出会えた事で得た
  感動と発見を、ぜひあなたに伝える事が出来たらと思い、少しだけお話を添えたいと思います。         
      *    *    *    *

 まずこの方をご紹介なくして、このお話は進みません。
舟田詠子氏「ダイフェカーター」の講演を開催した先生です。
長年にわたりパンの文化史を研究されており、ヨーロッパ各地で文献研究とフィール
ドワークを行なっているのだそうです。ご自身も1年の半分はヨーロッパで暮らし、
日本に戻っては、楽しい講演会を開くなど、非常にアクティブな毎日を送られていま
す。著書に『パンの文化史』『アルプスの村のクリスマス』『誰も知らないクリスマ』
など多数あり、クリスマスの文化の研究にも、大変長い年月をそそがれています。
(詳しくは是非、 http://homepage.mac.com/diedonau/index.htm  へ!)

舟田先生がこの「ダイフェカーター」という名のパンに出会った最初のきっかけは、
1枚の絵だったそうです。絵の中に描かれた不思議なパンを見て、「なんだろう?」
と思ったことから、その研究は始まったのだそうです。
そして10年以上かけて、その結果をまとめられたと言う訳です。
その絵は「聖ニコラス祭」を祝う家庭風景を描いたものでした。私もその絵の写真を
見せてもらいましたが、申し訳ない事に「これが問題のパンです」と指差されてもな
お探してしまうほど、ごちゃごちゃとした日常の家の中に描かれていましたから、自
分には、それがパンだということも分からないほどでした。

ダイフェカーターは、本当はもっと大きく焼かれるパンのようです。1本が2キロも
あるでしょうか、小さなお子さんなら抱えて持つほどだったと聞きました。とても重
たいずっしりしたパンです。表面は黒光りして、得体の知れない絵柄が切り込まれま
す。私も数回ほど忠実に再現して、焼き上げてみましたが、それを店に飾るとそれは
それは、おどろおどろしい雰囲気を漂わせ、大変人目を引きました。さて味ですが、
意表を突く旨味があります。ちょっと心を和ませてくれる、菓子パンの部類だと思います。
配合からも日持ちのするパンであった事が解ります。飾られてから食されたとするなら、
日本なら「鏡もち」といったところかな〜?なんて連想をしました。

「ダイフェカーター」とは、訳すと「悪魔の牡猫」となるそうですが、この名前の由
来も初めは分からなかったそうです。そのように、その講演会では現在に至るまでの
ダイフェカーターの謎が、臨場感タップリに話され、舟田先生は未開の地に乗り込ん
だまるで冒険家の様でした。それはミステリアスであり、スリリングで、いろんな偶
然も手伝いながら、謎は解き明かされて行くのです。先生のお人柄もあちこちに顔を
覗かせ、大変あたたかな気持になる講演会でもありました。初めは名前すら分からなかった
絵画の中のひとつのパンが、どんどんと沢山の出合いや感動を生み出しながら、
その正体を明かして行く様は、なんとも興味深いだけでなく、まるでおとぎ話の様な心弾む
展開だと、私は本当に眼を見張りながら話に聞きいった事を今でも思い出します。

また、講演会には歓談会が用意されており、なんと先生が手作りされたダイフェカーター
を食させて頂く事が出来ました。実は先生は、1998年に実際にダイフェカーターを焼いて
いるパン屋を突き止め、取材をされているのです。レシピも保有されてましたが、本物を食べた
事があるほど重要な事はありませんから、私は身を乗り出していました。なぜなら私も時折
お客様より「昔出会ったパンをもう1度食べたい」と依頼を受ける事がありますが、レシピだけ
では本物と同じに作れないのが、まさにパンであるからです。胸を高鳴らせて、興味津々パン
を口に運びました。初めて口にした、400年前のパンでした。先生は私がパン職人だと聞くと
「恥ずかしいわ〜もっといつもは上手に焼くのよ」と、はにかんでお笑いになりました。
よくお菓子やパンを作られるようで、どんどんと話が弾みました。
その時思いかけず、先生からダイフェカーターを焼いてもらいたいと依頼を受ける事
になりました、パン職人としてこんな瞬間ほど嬉しい事はなかったです。自分も自分
の手で作ってみたいと思っていましたから、また胸が高鳴ったのは言うまでもありま
せん。後日正式にオリジナルレシピを受け取り、何度か試作を繰り返し、先生に評価
頂きながら今に至り、先生のご承諾を得て実現しました。

ひとつの絵の中に描かれたパンを追い掛けることで、時代を逆走し その時代の中で
そのパンがどのように扱われて来たかを知る事になるなんて、私は思いもよらなかっ
たのでした。そこにはその時代の人々が「思ったり」「願ったり」した事が、託され
てあり、パンに食としての文化以外のものがあった事を初めて知りました。思いもよ
らなかっただけでなく、『パンの文化史』と言う、新しい世界を知りました。
他にも、絵の隅の床に落ちた小さな木の実一つでさえ、深い意味をもって描かれてい
ると、先生は教えて下さいました。
「絵は読むべきもの」であると本の中でも語っていらっしゃいます。
毎日毎日パンを焼いていますが、眼からウロコが落ちた瞬間でした。
そして、少しは学のあるパン屋になれたかも?なんて思ってみたりしています(笑)。

今年のクリスマスは「シュトレン」と「ダイフェカーター」と共に、お過ごしになっ
てはいかがでしょう?
そしてもしもっと詳しい「クリスマスの世界」が知りたくなったら、ぜひ舟田詠子著
『誰も知らないクリスマス』(朝日新聞社)をご覧になって頂けたらと思います。
本の宣伝をする様ですが(笑)、すべてのお話を簡単には説明できない難しさもあり、
簡単に説明したら申し訳ない思いもありますので、本当におすすめの1册ですので、
ぜひに!その他にも「シュトレン」についてや「モミの木を飾るのはなぜ」かなど、
クリスマスの不思議がいっぱい書かれてあります。
あたたかなカフェと一緒にシュトレン.ダイフェカーターを楽しみながら、その本を
ひも解いてみてはいかがかなと思うばかりです。