『ダイフェカーター』は「悪魔の牡猫」と呼ばれるパンの名前です。

「悪魔の牡猫」と呼ばれる400年前より伝わるX’masのパン。
レモンの香りのする大変珍しい味わいが楽しめます。

『ダイフェカーター』は、「悪魔の牡猫」と呼ばれるパンの名前です。
なぜそんな名前がパンに付いているのか?どんなパンなのか?知りたくなりませんか?
もう10年以上も前、2004年のある日、私はパンにまつわるある講演会に こんな変なタイトルを見つけました。
その正体がとても見たくなり、そしてその講演会を訪れました。
そこで400年も前のその不思議なパンに出会い、さらにはなんと!そのパンを作る機会を得たのでした。

少し長い話になりますが、私がこのパンに出合えたエピソードや、そこから得た感動そして発見の数々をぜひ少皆様に
お伝え出来たらと思います。宜しければしばしお付き合い下さい。
                                ZOPF代表 オーナーシェフ 伊原靖友
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まずこの方をご紹介なくして、このお話は進みません。
舟田詠子氏「ダイフェカーター」の講演を開催した先生です。
長年にわたりパンの文化史を研究されており、ヨーロッパ各地で文献研究とフィールドワークを行なっています。ご自身も1年の半分はヨーロッパで暮らし、日本に戻っては、楽しい講演会を開くなど、非常にアクティブな毎日を送られ ています。
著書に『パンの文化史』『アルプスの村のクリスマス』『誰も知らないクリスマス』など多数。クリスマスの文化の研究にも、大変長い年月をそそがれています。
舟田先生がこの「ダイフェカーター」という名のパンに出会った最初のきっかけは1枚の絵だったそうです。絵の中に描かれた不思議な形のパンを見て「なんだろう?」と思ったことから、その研究は始まったのだそうです。
そして10年以上かけて、その結果をまとめられました。その絵は「聖ニコラス祭」を祝う家庭風景を描いたものでした。私もその絵の写真を見せてもらいましたが、申し訳ない事に「これが問題のパンです」と指差されてもなお探してしまうほど、ごちゃごちゃとした日常の風景が描かれていましたので、それがパンだということも分からないほどでした。
ダイフェカーターは、本来は大きく焼かれるパンのようです。1本が2キロもあるでしょうか、小さ子供だと抱えて持つとよろけるほどだったと聞きました。とても重たいずっしりしたパンです。表面は黒光りして、得体の知れない絵柄が切り込まれます。私も数回ほど大きさも忠実に再現して焼き上げてみましたが、それを店に飾るとそれはそれはおどろおどろしい雰囲気を漂わせ、大変人目を引きました。

今はZOPFバージョンとして、小さく柄も入れさせてもらいましたが、本来は柄にも意味があるので、このような柄でないことをここで訂正しておきます。
パンはいわゆる収穫祭を祝って飾られるもので、実はずーっと昔は本物の猫を生け贄にしたようで、どうやらその名残りだというのです。収穫を祝う祭りの中には、また翌年の収穫を願う気持ちがあり、その為に魔除けを行ったとされます。いつしかその行事は、その猫を象ったパンに代用されていったと言う訳です。よく見ると両端のくるっと丸められて部分は骨の端に見えませんか? そう、これは猫のスネの骨を象ったとされているそうです。驚きでした!

さてお味ですが、意表を突く味わいがあります。心を和ませてくれる、菓子パンの部類ですね。配合からも日持ちのするパンであった事が解ります。飾られてから食されたとするなら、日本なら「鏡もち」といったところかな?なんて連想をしました。
「ダイフェカーター」とは、訳すと「悪魔の牡猫」となるそうですが、この名前の由来も研究当初は分からず、長い間呼び名も不明だったそうです。そのように、その講演会では現在に至るまでのダイフェカーターの謎が、臨場感タップリに話され、舟田先生は未開の地に乗り込んだ、まるで冒険家の様でした。それはミステリアスでありスリリング、いろんな偶然も手伝いながら、謎は解き明かされて行くのです。先生のお人柄もあちこちに顔を覗かせ、大変あたたかな気持になる講演会でした。
初めは名前すら分からなかった絵画の中のひとつのパンが、どんどんと沢山の出合いや感動を生み出しながら、その正体を明かして行く様は、なんとも興味深いだけでなく、まるでおとぎ話の様な心弾む展開だと、私は本当に眼を見張りながら話に聞きいったことを今でも思い出します。
また、講演会には歓談会が用意されており、なんと先生が手作りされたダイフェカーターを食させて頂く事が出来ました。
実は先生は、1998年に実際にダイフェカーターを焼いているパン屋を突き止め、取材をされていました。レシピも保有されてましたが、本物を食べた事があるほど重要な事はありませんから、私は身を乗り出して頂戴したのでした。
私も時折 店頭でお客様より「昔、出会ったパンをもう1度食べたい」と依頼を受ける事があります。レシピだけでは本物と同じに作れないのが、まさにパンですから、再現されるという瞬間がいかに貴重かと胸を高鳴らせて、興味津々パンを口に運んだのです。初めて口にした400年前のパンでした。先生は私がパン職人だと聞くと「恥ずかしいわ~もっといつもは上手に焼くのよ」と、はにかんでお笑いになりました。そして、どんどんと話が弾み、思いかけず先生からダイフェカーターを焼いてもらいたいと依頼を受ける事になったのです。パン職人としてこんな瞬間ほど嬉しい事はなかったです。自分も自身の手で作ってみたいと思っていたからです。

後日正式にオリジナルレシピを受け取り、何度か試作を繰り返し、先生に評価いただきながら完成させました。
そして今では、このパンを作る資格を得たのでした。

ひとつの絵の中に描かれたパンを追い掛けることで、時代を逆走しその時代の中でそのパンがどのように扱われて来たかを知る事になるなんて、私は思いもよらなかったのでした。そこにはその時代の人々が「思ったり」「願ったり」した事が、託されてあり、パンに食としての文化以外のものがあったことを初めて知りました。
思いもよらなかっただけでなく、『パンの文化史』と言う、新しい世界を知りました。
そして他にも、昔の絵画はその中に深い意味を携えて、色々なものが描かれていると教わりました。
絵の隅の床に落ちた小さな木の実一つでさえ、深い意味をもっているのだそうで。そう「絵は読むべきもの」であると本の中でも語っていらっしゃいます。眼からウロコが落ちた瞬間でした。(笑)。
クリスマスをちよっと変わった思考でお過ごしになるもの一興かもしれません。
「ダイフェカーター」と共に、誰も知らないクリスマスを体験されては、いかがでしょう。
詳しく「クリスマスの世界」が知りたくなったら、ぜひ舟田詠子著『誰も知らないクリスマス』(朝日新聞社)をご覧になって頂けたらと思います。本の宣伝をする様ですが~(笑)、すべてのお話を簡単には説明できない難しさがあります。ここにお話した事も本の1部です。ぜひこの本を是非お読みいただきたいと思います。

そうそう「モミの木を飾るのはなぜ」かなど、クリスマスの不思議がいっぱい書かれてありますよ。温かいカフェと一緒にダイフェカーターを楽しみながら、古き昔から伝わるX’mas菓子の歴史をひも解いてみてはいかがかな?と思います。
(現在『誰も知らないクリスマス』は店頭販売は終了となっているようですが、図書館等でご利用いただけます。)
◆◇ 食べ方 ◇◆
薄くスライスしてお召し上がり下さい。
紅茶・コーヒーなどカフェとご一緒にどうぞ。

[原材料名]小麦粉、きび砂糖、天日塩、生イースト、フレッシュバター、牛乳、レモン